SNS上である獣医師の言葉が話題になっています。
命に関わる事故猫を、その子を保護した方が病院に連れていくと
「飼われますか?」「お金かかりますよ?」
と獣医師から言われたそうです。(引用:https://togetter.com/li/1369270)
この投稿に、
「野良猫なのだから、善意でタダで診るのが獣医師として当然」
というネットの声もあれば、
「獣医師だって慈善事業ではないサービス業なのだから、診療を受けるからには費用を支払うのが当然」
という声も。
様々な立場からの考えが交錯する、命の現場の問題。正解はそれぞれの倫理観に委ねられ、模範的な回答は無いのかもしれません。
見ず知らずの猫ちゃんを動物病院に連れて行った人・猫ちゃんを連れてこられた動物病院の獣医師、それぞれの立場の思いを少し掘り下げて考えてみると、お互いの気持ちが報われる、なにか解決の糸口が見つかるかもしれません。
もくじ
死にそうな野良猫を見つけたら、あなたは動物病院に連れて行く?
さて、あなたがもし死にそうな野良猫を見つけたら、どうしますか?
事故でけがをしている野良猫、雨風で体力を奪われて瀕死の状態の子猫、家の近所や通勤通学の経路などで見かけた場合、あなたなら助けますか?
瀕死の野良猫を助ける多くの人の心理
瀕死の状態の野良猫が目の前にいた場合、「放っておけない!」と思い抱き上げる方もいるでしょう。
「なんとか命だけは助けてあげたい」
「自分の目の前で死んでほしくない」
「私に助けてほしいと言っているのかもしれない」
様々な思いが溢れてくることと思います。
そのような状態で、多くの方がまず頼りにするのが「動物病院」。自分ではどうしたらいいかわからないけれど、獣医さんなら適切な処置で助けてくれるかもしれない、と、頼りにされることでしょう。
弱っている命を見殺しになんてできないと思う気持ちが、まずは獣医さんへと助けを求め走らせるのでしょう。
もし一命を取り留めたら、あなたはその猫を飼いますか?
動物病院に勤務経験のある知人に話を聞いたところ、
「命を助けたい!」という一心で動物病院へと向かう方が多いのですが
「助かった後にその猫を飼うのかどうか」
という、助けた猫の命への責任や、後先の暮らしのことを考えていない(そこまで考えられていない)という場合がほとんどだそうです。
もちろん、生きるか死ぬかの命を目の前にして、「この後どうしようかな?」と冷静に考えられる人は少ないでしょう。
無我夢中で猫を抱いて動物病院に連れてきた人に、冷静に今後のことやその子の命のことを説明するのも獣医師の役割なのかもしれません。
「もしこの子が助かったら、あなたが飼いますか?」
という問いかけで、助けた人がふと冷静になり、これも縁だと感じて猫を飼うことにしたり、自分では飼えないから知り合いに引き取り手がいないかを探したりと、助かった猫ちゃんの命がつながっていく場合もあります。
すべての場合でそういった良い結果になると良いのですが・・・
助けたつもりで動物病院に連れていき、放置する人も
とても悲しいことですが、瀕死の猫を助けた人の一部には、動物病院に連れていき
「小さな命を救ってあげた」
という達成感だけを味わって、預けたままお金を支払わすに、ぱったりと連絡を絶つ人もいるのだそうです。
もちろん、治療にかかった実費だけでもあとからお支払いいただこうと思っても、だれも支払ってはくれません。
野良猫を置き去りにされてしまったら、動物病院も大変です。
入院するためのスペースにも限りがあります。
その後、野良猫が助かったとしたら、動物病院側はなんとか飼い主を探そうとするでしょう。
しかし、その後も飼い主が見つからなかった時のことを想像できるでしょうか?
1つの選択肢には、獣医師自ら保健所に連れて行かなければいけなくなる場合もあるのです。
そのような辛い思いをしてきた場合には、
「野良猫の今後のことも考えて助ける気があるのか?」ということを問いかける意思確認として、
「飼われますか?」「お金かかりますよ?」
という強い言葉で確かめている、という側面もあるのかもしれません。
死にそうな野良猫を無料で診療するべき?
獣医師は死にそうな野良猫を無料で診療するべきなのでしょうか。
これについては、各獣医師の判断に委ねられるかとおもいますが、
「自分は良いことをして猫を助けようと連れてきたのだから、獣医はその善意に応えて無料で診療するべきだろう」
という善意の強要をするのは、あまり良いことではないでしょう。
ほとんどの方は、見ず知らずの野良猫だったとしても、当然医療費は支払うという気持ちでいらっしゃるのだそうです。
獣医師の診療を受ける際に
「私が支払いをします」
と、野良猫の命助けるのは自分の責任と意思で行なっているという意思表示を先にすると良いのかもしれません。
しかし一方で、「自分が飼っているわけではないのだから、医療費を支払うつもりはない。」と主張する方もいるそうです。
そういう方の場合、助かった猫ちゃんの今後の話になると、前述のように連絡を途絶えさせてしまう場合も実際にあるようです。
お互いの気持ちを汲んだ意思確認を
私自身も、元動物病院勤務の知人から話を聞くまで、猫を動物病院に置き去りにしてしまう人もいるということを知りませんでした。
そういうつもりではない人が多いのでしょうが、動物病院側もそのような経験があれば、多少強い言葉で予防線を張ってしまうこともあるのかもしれません。
しかしながら、中には心優しい人もたくさんいるのですから、獣医さんも少し言葉を選ぶべきだったのでしょう。
「飼えますか?」「お金かかりますよ?」ではなく、
「もし助かった後は、ご家族として迎え入れられますか?飼い主さんを探せそうですか?」
「申し訳ないけれど、治療をする以上、このくらい費用がかかりますがご了承いただけますか?」
と、もう少し温和な説明の仕方もできたのではと思います。
真っ当に費用を払おうとしている人にとっては、獣医師の言葉がとても心外な言葉ともなり得ます。
瀕死の野良猫を助けた方の気持ちと、助けた後のことを考えてもらわなければいけない獣医師、
お互いの気持ちを少しでも汲んで、助かった後の猫ちゃんの命のことを考えられるといいですね。
野良猫を動物病院に連れて行く場合は
野良猫を保護して動物病院に連れていく場合は、まずは電話や窓口で「相談」という形で話をしてみると良いのではないでしょうか。
診療費についても、まずは相談してみないと獣医師がどのような判断をするかわかりません。
ただ、生きるか死ぬか一刻を争う状態の場合もあります。
その場合、獣医師も、命を助けたいという一心から、治療内容や診療費の説明は後回しという緊急の事態もあるかもしれませんので、動物を病院で診てもらうとなると費用はかかることを念頭に置いていたほうが無難かもしれません。
「お金を払わなければ瀕死でも診てもらえないの!?」
と思う方もいらっしゃるでしょう。
ただ、獣医療も平たく言えばサービス業の1つです。
診療に使う設備費、薬代、処置や検査に使う医療器具、そして獣医師や看護師の人件費・・・
どれも費用がかかることですし、人のように国が一部の医療費を負担するなどという制度も動物の場合がありませんので、
「野良猫だから当然無料だろう」
という前提で診療を受けようとする方がいれば獣医師も困ってしまうことでしょう。
お金がないけれど、弱った猫を見つけてしまった。どうしたらいい?
近くの獣医さんに電話をしてみたけれど、
「野良猫でも、診療費は連れてきた人に負担していただかなくてはいけない」
と言われた。でも、どうしてもお金がない・・・それでも、何かできることをしてあげたい。
そんなときには、まずはご自身でできる限りのことをしましょう。
その子は直射日光や雨風に当たるところにいませんか?
カラスに狙われるところにいませんか?
まずは体温を維持できるように、日陰や雨のかからないところに移動させましょう。
屋根があるところなら尚良いでしょう。
そして、身体が濡れていて冷えてしまいそうであれば拭いてあげたり、寒そうであればタオルや毛布をかけるのも方法です。
また、お水や栄養の取れるものを食べやすい位置に置いて、自分で体力が回復できるような手助けをするのも、できることの1つです。
まずは、有償のサービスを頼る前にご自身でできる処置をすることも大切なことかと思います。
もし、亡くなっている野良猫を見つけたら
瀕死の状態や、弱っている状態ではなく、すでに息を引き取っている状態の野良猫を発見する場合もあることと思います。その際にできることをご紹介します。
地域の行政に連絡をして引き取ってもらう
車に轢かれ道路上で死んでいる猫や犬は、その道路の管理者に依頼して引き取ってもらうことができます。
国道なら管轄の国道事務所、県道なら県、市道なら市が管轄しています。
道路上の障害物として管理を委託している業者(地元の建設業者が多い)に
「○号線の□□の付近に動物の遺体があります。」
と正確な情報を伝えましょう。
動物の死骸、落下物、それぞれについて処分方法が決まっていて、それに従いゴミと一緒にではありますが、引き取られ処分をされます。
いつまでも道路に横たわった状態で何重にも車で轢かれたり、カラスにつつかれて無残な姿になってしまうよりは、早めに行政に引き取りをお願いすることも、発見者の方にできることです。
ペット火葬を依頼して看取ってあげる
民間のペット火葬業者に依頼をする際、野良猫と飼われていたペットの区別なく、ご火葬の費用がかかります。
また、火葬後の遺骨をどのように供養するかも、依頼者に委ねられます。
野良猫でも手厚く見送りたいと思う場合には、費用が発生するでしょう。
死んでしまった野良猫の最期を見送ってあげた優しいご家族の話
弊社にも、時折野良猫ちゃんのご火葬のご依頼をいただく場合がございます。
この日、「野良猫なのですが、火葬をお願いしても良いですか・・・」と1本のお電話をくださった方がいらっしゃいました。
ご事情を伺ったあと、前述のとおり「申し訳ないのですが費用がこのくらいかかります。」とご案内させていただいたところ、
「費用はもちろん私がお支払します。うちの庭で亡くなっていた子なんです。何かの縁かもしれないので、ちゃんと供養をしてあげたいと思って」
とおっしゃいました。
お伺いさせていただくと、生きている間に触れあったことの無いその猫ちゃんに、ご依頼者の方が「家族」としてちゃんと名前をつけてあげていらっしゃいました。
「今度は生きてるうちに、うちの子になるんだよ。」
と涙を流してお声がけをされ、
「お骨は、お庭に埋葬しようと思います。」と、お骨上げもしっかりとしてくださいました。
最期に「家族」ができた野良猫ちゃん。
このお家の守り猫になって、家族の方を見守っていてもらいたいなと願いを込めて、ご自宅を後にさせていただきました。
弊社は、火葬炉をつんだ車でお伺いさせていただく「移動火葬」という様式で、1頭ずつ火葬させていただき、ご火葬後のご遺骨はご依頼者様(家族の方)にお返しさせていただいております。
また、ご遺骨をお引き取りにならない場合には遺骨をお預かりして散骨という形で供養させていただいています。
個別に丁寧にご火葬させていただき、飼われていた子でも野良猫ちゃんでも同じようにお見送りをさせていただきますので、恐縮ではありますが費用がご依頼者様にご負担いただいております。
ご依頼者の中には、どんなに長く一緒に暮らしていたペットちゃんの家族の方でも、
「そんなに丁寧じゃなくていい、骨もいらない、なるべく費用をかけたくない」
というお考えの方もいらっしゃるので、そういった場合には行政で行っている合同火葬などをご紹介させていただいております。
亡くなりそうな野良猫ちゃん、あるいは亡くなられた野良猫ちゃんを見つけたら自分ならどんなことができるのか。
その答えは一つではありません。
もし、あなたならどうしますか。
本日、瀕死の野良猫を動物病院へ連れて行き、その病院で同じようなことを言われました。
勿論、家族として引き取ろうと思っていましたが、先住猫もおり、処置後すぐには連れて帰れないので一時預かっておいてほしい旨を伝えると、「飼えないなら手を出さないほうが良かった。」
と言われ、経過観察もしてもらえないなんて酷いと思いながらも、その子を連れて病院を出ました。
預け先を探している道中でその子は亡くなってしまい、どうしたら良かったのか悩んでいましたが、
こちらの記事に辿り着き、
獣医師さん側の苦悩もあるのだと理解できました。
とても参考になりました。ありがとうございました。
オーストラリアでは RSPCA/動物虐待防止協会の支部がどの市にもあり、傷ついた動物は無料で引き取って面倒を見てくれます。
殆どの獣医も野生動物等は無料で引き取ってくれます。
日本も早くその様になって欲しいと思います。